家族信託が必要ないケースとは?信託に潜む5つのデメリットと司法書士事務所の担当事例も紹介

家族信託が必要ないケースとは
この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)


司法書士法人勤務後、2013年独立開業。
司法書士としての法律知識だけではなく、「親子の腹を割った話し合い、家族会議」を通じて家族の未来をつくるお手伝いをすることをモットーに、これまでに200件以上の家族信託をはじめ、相続・生前対策を取り組んでいる。年間50件以上のセミナーを全国各地で行い、家族信託の普及にも努めている。

家族信託は親や子どもなどの「家族との間で結ばれる信託契約」のことです。
最近では、「親の認知症対策や孫以降の相続先を指定できる二次相続などに効果的な制度」と雑誌や新聞、セミナーなどで取り上げられています。
そのため、家族信託・民事信託はメリットがたくさんあることが一般の人にも広まってきました。
ですが、万人にとって有効ではありません。導入する前にデメリットと家族信託が必要なケースについてもちゃんと知っておく必要があります。

今回の記事のポイントは、下記のとおりです。

  • 信託のデメリットとして、①遺留分の取り扱いが不明②金融実務の未整備③損益通算できない④受託者無限責任⑤法務税務解釈未確定部分がある
  • 争いがある家族関係の場合には、家族信託・民事信託ではなく、成年後見制度を活用すべき
  • 家族信託は信頼のおける家族がいてこそトラブルなく運用できる制度である
  • 家族信託・民事信託を導入する際は、受託者への権限集中やほかの家族との話し合いに注意しながら家族全員の同意をとり、親族間で争いが起きないように将来の財産管理、資産承継の道筋をつくるべき
  • 信託すべき財産がない場合は、家族信託を結ぶメリットは小さくなる
  • 家族への確実な信託や二次相続を見据えるなら家族信託を活用すべき
  • 認知症対策や共有不動産の問題解消など家族信託だからこその柔軟な対応ができるケースもある

家族信託を結ぶためにかかる初期費用も数十万円から数百万円です。
そんな中でWeb記事や書籍、専門家から勧められて締結したものの、「実際の運用しようとしたときにメリットが活かしきれていなかったことに気づき、手続きを行う時に手間や時間ばかりかかってしまった」という相談を最近、受けました。私自身、専門家としてこれは制度の利用を検討されている方に伝えなければならないと強く感じたことです。

今回の記事では、家族信託・民事信託を導入することが向いていないケースや家族信託のデメリットについて詳しくお話します。また、逆に家族信託でないと対応できないケースや当事務所の司法書士が対応した家族信託の実例についても解説します。
この記事を読むことで、信託を行うデメリットについても知ることができるようになります。そして、導入する際に、デメリットを受け入れてでも、信託を導入するかどうか?我が家で検討することができるようになるはずです。

目次

.家族信託は万能ではない

家族信託・民事信託は、生前の財産管理、相続後の遺産分割対策の機能があり、相続税対策と各種生前対策をセットで行うことにより相続直前までの対策と相続後の資産承継の対策をまとめて解決する生前対策の方法の一つです。

しかし、万能ではありません。

万能であるかのように見える部分もありますが、それは真実ではありません。

家族信託を考える上で、しっかりと把握しておかないといけないことは、多々あります。家族信託・民事信託を考えていく際に、「こうしたい」「どうしたい」と様々な案が出てくると思いますが、実際に運用されたときのイメージを持って契約書が作られているかというのは非常に重要です。

家族信託・民事信託が向かないケースを知り、それはなぜなのか見ておく。でないと、「家族信託でこれができると思ったから、取り入れたのに・・・・」という後悔になります。

しっかりとチェックしておきましょう!

2.家族信託に潜む5つのデメリット

家族信託・民事信託を組むにあたって、考えられるデメリットは下記の5つです。

2‐1.遺留分侵害額請求の対象になるかどうかについて判例がないため、相続後に争族問題となる可能性があること

実際に紛争になった場合に、遺留分に対する受益権の取り扱いがどうなるかなどまだ、法的な取り扱いが確定していません。

22.信託口口座や既存担保物件の融資の取り扱いなど金融実務の整備が整っていないこと

金融機関ごとに家族信託への取り扱いが異なります。両親の相続税対策で家族信託・民事信託を導入したのにも関わらず、金融機関によっては信託した金銭を管理するための口座を開設することができない、融資などの金融取引への対応をしてもらえないなどといった問題があります。

家族信託に伴う金融機関の対応方法については、別の記事で詳しく解説していますのでこちらを確認してみてください。

23.信託不動産の損失と信託をしていない不動産の損益通算ができず、損失を翌年へ繰り越しができないこと

アパートなどの収益物件を所有しているケースでの家族信託の適用について注意しなければいけないのが、損益通算の禁止の規定です。

個人の所得と信託不動産の所得を通算できません。

租税特別措置法の規定により、信託不動産ででた赤字は不動産所得の計算上なかったものとすると規定されています。

例えば、信託契約で委託者親が有する信託財産に賃貸不動産(信託不動産)を含めた場合、税務上信託不動産からの不動産所得は委託者兼受益者である親に帰属します。ですが、信託不動産の賃貸経営で赤字が出たとしても、委託者個人名義で所有する他の所得や信託財産以外の不動産所得とと信託不動産の赤字は損益通算はできません。

信託不動産の所得が赤字-100万円の赤字で、委託者の個人所得が200万円の黒字だと想定します。この場合、信託財産の赤字はなかったものとみなされますので、損益通算はできず委託者の所得200万円が課税対象になります。

個人が青色申告している場合、「純損失の繰越控除」として赤字を翌年以後3年間、その後に発生した所得と相殺できますしかし、家族信託では、損失がなかったものとみなされるため、翌年へ繰り越しもできません。

複数の不動産を所有している場合は要注意

アパートや駐車場など収益不動産を有している方については、信託をした不動産と信託していない不動産があるような設計をしてしまった場合には、それぞれの収益を通算できないという問題がありますまた、信託財産から生じた損失を翌年へ繰越すこともできません(措法41の4の2①、租令26の6の2④)。

例えば、AアパートとBビルを所有していたとします。Bビルを信託財産として長男を受託者とする信託契約をし、アパートは新契約の中に入れず、自身で管理することにしました。その場合、相談者は信託契約に基づきAアパートとBビルの受益権を所有していることになります。ある年にAアパートの所得は連年通り600万円となりました。ところが、ビルについては大規模修繕を行い、その年の所得は経費を支払った結果、-300万円の赤字となったとします。

ビルが通常の所有権であればアパートの所得600万円と合算することができ、不動産所得は+300万円となりますが、信託契約をした場合には、信託財産にいれなかった不動産(Aアパート)の利益である+600万円と信託財産とした不動産(Bビル受益権)の-300万円の損失を損益通算ができず、損失はなかったものとみなされるため、アパートの600万円の不動産所得に対して課税されます。また、ビルが通常の所有権であれば当該損失は翌年以降への繰越しが認められますが、Bビルは信託財産であるため、損失を翌年へ繰越すこともできません。

複数の信託契約を組成するときも注意が必要です。ご家族の状況に応じては、信託財産ごとに受託者を別人にする、帰属権利者又は第二受益者など本人(当初受益者)死亡後の財産取得者ごとに信託契約を分けるといった設計を行うことがあります。不動産を信託財産とする信託契約が複数ある場合には、信託ごとに計算を行うことになるため、それぞれの信託契約を合算して損益通算することもできません。

24.受託者は無限責任を負う

受託者は管理者責任があるため、信託財産で第三者に対するその損害等を賄いきれない場合には、受託者個人が弁償するという義務(無限責任)を負います。

つまり、受託者は、家族信託を通じた取引で生じた債務や損害について信託財産で支払いができない場合は、その債権者に対して受託者自身の財産で支払わなければなりません。わかりやすく言葉を言い換えると、受託者は、連帯保証人に近い立場に置かれます。

また、家族信託における受託者は、委託者の財産について大きな権限と義務を要します 。受託者になるということは、財産管理や周囲の視線などに対する大きな責任・プレッシャーを背負うと同義です。

5 この法律において「受託者」とは、信託行為の定めに従い、信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をすべき義務を負う者をいう。(引用:信託法

例えば受託者は、受益者(※)の利益や信託目的のための財産管理・処分だけでなく、今以上の収益化を見据えた運用、新しい不動産の購入、金融機関からの借り入れなどについて実行できる権限があります。この大きな権限はほかの家族からの嫉妬・妬みにつながることが考えられます。

一方で帳簿や貸借対照表、損益計算書などの作成やその他の信託事務を行う義務が課せられるのも受託者です。受益者への報告や書類の保存も同じく義務です。信託事務を第三者に委託するときも、専任から監督まで受託者が責任を持って見なければなりません。

もし受託者の役割を怠った結果として信託財産の損失や変更が生じると、受益者からの請求次第で、損失のてん補・現状の回復といった責任が発生します。

また家族信託契約がどれくらい続くのかについても確認が必要です。契約期間が長引けば長引くほど、受託者は権利と義務を背負う期間が伸びることになります。

「生活が手一杯で親の信託財産まで見られない」「子どもに負担を背負わせたくない」という場合は、家族信託を利用するかについては事前によく検討しましょう。

※家族信託の場合は贈与税の関係で委託者と同一人物にするのが一般的

25.法務・税務について解釈が確定していないこと

家族信託・民事信託の制度が導入されてまだ間もないため、判例や税務通達などが確定していない分野があります。そのため、今後の動向によって当初考えていた法務・税務の取り扱いが変わる可能性があります。

なお、弊社司法書士・行政書士事務所リーガルエステートでは、200件を超える信託形成の実績と日々のアップデートにより、適切な家族信託締結をサポートします。また税務に関しては、提携している税理士と共にお客様お一人お一人に合った対策を考え、法務面・税務面ともにご家族に一番合った生前対策をご提案しております。無料相談も随時行っておりますので、お気軽にお問合せください。

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3.ズバリ!家族信託が必要ないケースとは!?

家族信託が必要ない・おすすめできないケースの特徴を、当事務所のこれまで培ってきた経験や相談実績をもとに6つご紹介します。

まず家族信託について軽くおさらいを記載しておきます。家族信託とは委託者・受託者・受益者の関係を決め「委託者の財産に関するさまざまな権利を受託者へ任せる」という契約を家族の間で結ぶことです。

概  要 
委託者 自分の財産を受託者へ信託して管理・運用を任せる人
受託者 委託者から信託された財産の名義人になって実際に管理・運用を行う人
受益者 受託者の管理・運用によって発生した利益を受け取る人

結ぶ上で気をつけておきたいのは家族との関係性です。家族間での財産・利益のやり取りや受託者が持つ権限などが要因となり、親族同士のトラブルに発展する事例を多く見てきました。

また、信託契約は委託者と受託者のみで行うことができるので、例えば父、母、長男、次男、長女の家庭の場合、委託者父と受託者長男だけで契約自体はできてしまいます。

遺言は資産承継先を決めるために使いますが、家族信託は生前の財産管理機能も有します。次男、長女のあずかり知れないところでいつの間にか父親の財産がすべて信託財産として受託者長男の管理下になってしまった場合、次男と長女はどう思うでしょうか?

本来、円満な相続対策を意図して家族信託を設計したにもかかわらず余計な紛争問題を発生させかねない問題を孕んでいます。

以下では家族との契約だからこそ発生する問題を中心に1つずつ解説します。

3-1.争いのある親族関係のケース

家族信託は新しい制度のため、見解が分かれる論点について、確立した判例も少ない事に注意が必要です。家族信託について理解ある親族がいることが重要であり家族全員が納得の上、手続きを行っていく必要があります。

家族信託・民事信託は「これは生前の遺産分割です。」に近いと、相談者には説明しています。将来の財産管理と資産承継先を生前に本人の立会のもと、家族会議を経て決めるため、その後、揉めることはありません。

しかし、「事前に説明ができない」「家族関係に問題がある」といった状況では家族信託・民事信託を行うことができません。もし、ご家族の仲が悪かったり、話し合いができない親族がいる場合は、家庭裁判所の関与の元、中立な第三者が成年後見人等として管理する成年後見制度を活用したほうがよいかもしれません。

また、家族という親しい関係性だからこそ、財産を取り扱える権限を持つ人への不公平感が生じます。

家族信託契約の締結は委託者と受託者が同意していれば、ほかの家族の同意は法律上必要ありません。しかし実際は当事者以外の家族との生活面でつながりや、個々人の財産に対する想いや考えが存在します。家族全員が納得した上で締結しなければ、裁判沙汰になったり生活内での小競り合いが続いたりなども考えられます。

例えば、話し合い不足によって起こるトラブルは下記のとおりです。

  • 判断力が鈍った親(委託者)を騙して無理やり結んだのではないかと疑われる
  • 「なぜ他の家族に話を通さずに勝手に受託者を決めたのか」と周りから権力集中について非難される
  • 「自分は兄よりうまく財産を扱えるはずだ」といった受託者選定に関する不満が出る
  • 任せた子ども(受託者)が財産を不正利用して暴走しているが周囲に止める権限がない
  • 受託者として常に大きな権限と義務を持ったが周りにサポートしてくれる人がいない  など

特定人に有利になるよう、親の財産を子の1人が独占して管理し、外部に開示できないようにする家族信託・民事信託は将来の「争族問題」をつくることになります。将来相続人となりえる方全員の了解がとれないようなケースは慎重に取り扱うべきです。

3‐2.受託者を任せられる信頼できる親族がいないケース

受託者である親族には、権限の幅はかなり広く、信託財産の管理・運用・処分をするだけでなく、信託契約に基づいた行為は基本的には可能です。一方で、受託者による権利濫用を防ぐために、様々な義務を課されることになります。

受託者は、自分自身の財産と信託財産は、別々に管理しなければなりませんし、親族とはいえ他人の物を預かっているためその管理運用は、自分のもの以上に扱うことに注意が必要です。(よく「善管注意義務」と呼ばれますが、受託者は、信託目的の実現のために善良なる管理者としての注意義務をもって処理しなければなりません。)

このように「財産を任せるほど信頼のおける家族が存在するか」という点が家族信託を結ぶ上で重要となります。れらの義務をしっかりと遂行できる方が親族にいるかどうか?で考えてみてください。任せるのは不安だなと思うのであれば、一旦他の制度も考えてみてください。

このこと以外にも、法令信託や目的に従い、受益者のために忠実に信託財産の管理・運用等を行う義務がありますし、信頼されて委託された契約ですので、あまり他人に代行をさせないで原則自分自身で対応しなくれはならない等の義務がありますので、受託者にとって負担になってしまうこともあるでしょう。ですから、中途半端な気持ちで受託者になることはできないため、想定していた受託者候補者から断られてしまうケースもあります。

3-3.自宅など不動産の売却や施設費用のための多額の金銭の支払いなどの予定がないケース

家族信託のメリットは、信託財産について契約の範囲内で管理・運用しやすくなる点です。つまり信託財産による収益の見込みがなかったり、そもそも不動産といった収益性がある財産を持っていなかったりする場合は、家族信託を結ぶ必要がない可能性があります。

例えば下記のケースです。

  • 委託者の自宅や所有するアパートの貸付・売却などの予定がない
  • 親の認知症によって凍結される財産がない、もしくは凍結しても困らない
  • 親の介護や治療、生活、施設への入居などの出費に関して信託財産の収益を当てにしていない
  • 相続に関しては遺言で十分に対応できる など

なお、上記したケースとは別に「家族信託で信託財産とした不動産は、信託財産以外の不動産と損益通算ができない」という不動産ならではのデメリットも存在します。信託財産の不動産で出た損失を、信託財産以外の不動産から出た利益で相殺できないという決まりです(信託財産以外での損失・信託財産で出た利益という逆のパターンは可能)。

3-4.生前贈与などで資産譲渡が完了しているケース

例えば生前贈与などによって受託者としたい人への財産譲渡や名義変更が完了している場合、もしくは今後その予定がある場合は、わざわざ家族信託を新たに結ぶ必要はありません。

「では家族信託と生前贈与ってどっちが良いの?」という話ですが、あくまで「委託者が受託者に信託している状態」の家族信託と、「贈与として完全に権限が移動している」生前贈与のそれぞれのメリット・デメリットを見て判断しましょう。おおまかな違いは下記のとおりです。

家族信託 生前贈与
財産の管理 ・受託者
・委託者(受益者)が受託者へ意見できる
・贈与された者
・贈与した側の意見に関係なく財産を管理できる
かかる税金 ・贈与税(※)
・相続税
・登録免許税(家屋評価額0.4%)
・贈与税
・不動産取得税
・登録免許税(家屋評価額2%)
契約終了の条件 家族信託契約の終了 贈与した側への再贈与や売買
詳しい専門家 少ない 多い

※委託者と受益者が違う人物であるとき(他益信託)は課せられる可能性がある

なお家族信託と生前贈与のどちらも、一方が認知症やそのほかの病気などで判断能力がなくなると契約を締結できません。

3-5.資産より身の回りの管理をしてほしいケース

家族信託で管理できるのはあくまで信託財産に関わる範囲のみです。例えば認知症になった介護や治療、生活、施設への入居などの法律行為は代行できません。こうしたケースに対応できるのは、「身上監護」がついている成年後見制度(法定後見制度と任意後見制度)になります。

もし親の認知症対策で「お金や不動産だけでなく、毎日の生活や介護関係などに関する法手続きを自分でしたい、もしくは信頼ある人に任せたい」という場合は、成年後見制度の利用も検討しましょう。

とはいえ多くの介護・医療施設では身上監護がなくても、サービスを受ける本人の家族で近くに住んでいるときは手続きの代行を認めています。

3-6.信託できない財産が多いケース

もし家族信託を考えている場合、持っている財産が本当に信託財産にできる対象であるかの確認が必要です。実は信託できない、もしくは難しい財産が存在します。

1つ目は農地です。農地は信託法とは別に農地法という法律の規制を受けるため、信託財産とするには農業委員会等の許可や届出が必要です。しかし信託に関しては、農業協同組合といった一定の法人のみしか受託者として認められません。信託したい場合は農地を宅地へ転用する必要があります。

2つ目は投資信託です。投資信託が明確に規制されているわけではありません。家族信託に対応する証券会社が現状少ないことが原因で、信託口口座が開設できないことが理由として挙げられます。

3つ目は金銭的価値に置き換えられないものです。具体的には生命や名誉、債務、連帯保証、一身専属権(生活保護受給権や年金受給権)になります。

4.家族信託でないと難しい「必要なケース」は?

家族信託が必要ないケースと同時に、家族信託でないと対応が難しいケースが存在します。成年後見制度ではできない財産先の指定や、信託財産と自分の財産の分別管理を求める場合です。こうしたケースでは家族信託の利用を検討してみましょう。

ここからは、「むしろ家族信託でないと実現が難しいケース」を3つご紹介します。

4-1.第三者に財産を任せたくない

家族信託の最大の特徴は「信頼できる家族に財産を任せられること」になります。もし家族以外の第三者に財産の管理・運用へ関わってほしくないときは、家族信託を利用するのが一番良いでしょう。

「成年後見制度では駄目なのか?」という疑問ですが、結論からいえば家族に財産を任せられる確率が低くなります。法定後見・任意後見のどちらの制度も後見人等(保佐人や補助人を含む)を誰にするか最終に判断するのは家庭裁判所であるためです。

最高裁判所事務総局家庭局が公表する「成年後見関係事件の概況(令和21月~12月)」によると、親族以外の人(弁護士や司法書士など)が後見人等になったケースが全体の80.3%に上ります。希望によって専門家へ任せているケースがあるとはいえ、それでも低い数値です。

成年後見制度のうち任意後見制度は後見人等の指定ができるものの、財産の管理・運用に関しては家庭裁判所が専任した任意後見監督人などの意見やチェックが入ります。合理性なく財産を減らしたり、リスクある資産組換を行ったりが難しくなるでしょう。

その点家族信託は委託者と受託者の同意さえあれば、信託契約の範囲内で家族に自由な運用を任せることが可能です。

4-2.自分の財産と信託財産は分けて管理したい

信託法上、受託者個人の財産と委託者が信託した財産は分けて管理しなければなりません(分別管理義務)。

そのため仮に委託者が破産しても、受託者の財産とは別扱いになるので、受託者が一緒に破産することはありません。逆に受託者が破産しても委託者の財産には原則として影響なしです(倒産隔離機能)。

例えば家族信託ではなく生前贈与で受贈した不動産の運営に失敗すると、その負債は受贈者本人が背負うことになります。そうしたリスクを回避したい、もしくは受託者にリスクを背負わせたくないときは家族信託が良いでしょう。

ただし委託者が「借金があるけど500万円分を信託財産として分離して、差し押さえられる財産を減らそう」というような、委託者の債権者を害するような信託を実行した場合は、詐害信託として取り消しが認められます。

4-3孫世代の相続や引き継ぎたい財産がある

家族信託は契約の内容次第で、孫やそれ以降の世代の財産の引き継ぎ先を指定できます。これは成年後見制度や遺言、その他の相続対策では難しい家族信託ならではのメリットです。例えば下記のような引き継ぎ指定ができます。

  • 現在住んでいる自宅を不動産の形のまま孫へ引き継ぎたい(子世代で自宅を他の財産に替えることを禁ずる)
  • 孫世代以降にも財産を行き渡らせたい(配偶者・子世代のみで相続を完了させない)
  • 自分が亡くなった後の相続は配偶者にするが、配偶者が認知症になることを想定して子世代への相続まで考えておきたい など

こうした家族信託を「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」といいます。ただし相続が絡む場合は遺留分(民法の法定相続人となる人が最低限の財産を受け取る権利)は侵害できないので、遺留分に留意した信託契約書を作成しましょう。

5.司法書士が対応した家族信託を必要とした3つのケース

当事務所では家族信託に関するさまざまな事例を取り扱ってきました。そんな中で実際に家族信託を活用したからこそ、問題を柔軟に解消できたケースが数多くあります。

ここからは当事務所の司法書士が対応した「家族信託を必要としたケース」をご紹介します。また逆に家族信託を行う上でよくある失敗のパターンをみていきましょう。

5-1.遠方で1人暮らしする親の認知症対策と財産管理

生活面や介護面を考えると親の認知症対策には成年後見制度の検討をおすすめしました。とはいえ財産面の管理では家族信託だからこそできることも多いです。

事前に家族信託契約を締結しておくことで、遠方で暮らす親が知らず知らずのうちに徐々に判断能力が低下したとしても、大きな金融損害を防ぐことが可能です。具体的な活用例をみていきます。

  • 日常生活で使う生活資金を親へ都度送金することで使いすぎを防げる
  • 財産を管理することで悪質な詐欺師相手に対して勝手にお金を振り込まないかを監視する
  • 必要に応じた自宅のリフォームやバリアフリー工事を検討できる  など

信託契約の中に相続に関することも盛り込んでおけば、親が亡くなった後でもスムーズに相続を進められます。

5-2.共有不動産による管理問題の解消

複数人で資金を出し合ったり2人以上に相続した不動産は、共有不動産として複数人が持分割合だけ所有している状態になります。この状態だと下記の問題が発生しやすいです。

  • 持分割合が小さい所有者が大きい所有者に使用を制限させられて使いづらい
  • 1つの意見を通すのに全員の同意を得る必要がある
  • 共有不動産の相続が発生したときに「誰にどれだけ相続するのか」「自分は相続したくない」といった争いが起こる可能性がある
  • 所有者の1人が認知症になると全員の同意が得られず契約・売却などの話し合いが滞る  など

この共有不動産の問題解消には家族信託が活用できます。信託契約における受託者の管理範囲や受益権の分配を話し合いの上で決めることで、持分割合で解決できない部分の指定が可能です。具体的にみていきましょう。

  • 受託者を1人にし、その1人が共有不動産の運用・管理の最終判断をできるようにする(誰かが認知症になったり話し合いをかき乱したりしても受託者の一存で決定を下せる)
  • 相続が発生しても受益権だけ移動できるので、受託者の権利は持分割合に左右されなくなる

上記のような複雑な事例にこそ、柔軟性ある家族信託を活用すべき事例といえるでしょう。

5-3.家族信託を利用した融資

成年後見制度は本人(委託者)の保護が目的であることから、収益を目的とした運用ならびに積極的な融資を受けることが困難です。しかし家族信託であれば「信託内借入」と「信託外借入」という2つの方法を利用できます。

  • 信託内借入:信託契約で定めている借入権限をもとに受託者が借り入れられる融資。借り入れた金銭は信託財産として扱う。
  • 信託外借入:信託契約外で委託者本人が借り入れられる融資。借り入れた金銭は信託財産ではなく委託者本人の金銭になるが、不動産の新築や購入などをした後に受託者へ追加信託をおこなう。

この方法であれば「認知症対策をしながら新しく収益用のアパートを建てる」という、成年後見制度では難しい管理・運用が可能です。

5-4失敗例】認知症で家族信託が利用できないケース

家族信託のご相談を受けるとき、「うちの親はまだ認知症とは程遠いから、まだ本格的に進めなくて良い」という相談者様がおられます。結論からいえば元気なうちだからこそ、家族信託を進めるべきです。

家族信託の失敗例でもっとも多いのが、家族信託契約を結ぶ前に親の判断能力が低下して信託契約が結べなくなるケースです。「ここ半年で急激に認知症が進行した」や「急な事故や病気で話し合いができなくなった」と、想像以上の早さで事態が急変することがあります。

家族信託は委託者の判断能力が低下してからでは締結できません家族信託を検討している際は、必ず委託者が話し合いに応じられる間に進めましょう。

6.家族信託をはじめ、ご家族に合った生前対策について無料診断受付中

当サイトでは、どんな形で預金や不動産を家族だけで管理できる仕組みを作ることができるか、無料診断が可能です。累計3500件を超える相続・家族信託相談実績をもとに、専門の司法書士・行政書士がご連絡いたします。

家族信託、成年後見制度の活用など、ご家族にとってどんな対策が必要か、何ができるのかをご説明いたします。自分の家族の場合は何が必要なのか気になるという方は、ぜひこちらから無料診断をお試しください。

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まとめ

  • 信託のデメリットとして、①遺留分の取り扱いが不明、②金融実務の未整備、③損益通算できない、④受託者無限責任、⑤法務税務解釈未確定部分がある
  • 争いがある家族関係の場合には、家族信託・民事信託ではなく、成年後見制度を活用すべき
  • 家族信託は信頼のおける家族がいてこそトラブルなく運用できる制度である
  • 家族信託・民事信託を導入する際は、受託者への権限集中やほかの家族との話し合いに注意しながら家族全員の同意をとり、親族間で争いが起きないように将来の財産管理、資産承継の道筋をつくるべき
  • 信託すべき財産がない場合は、家族信託を結ぶメリットは小さくなる
  • 家族への確実な信託や二次相続を見据えるなら家族信託を活用すべき
  • 認知症対策や共有不動産の問題解消など家族信託だからこその柔軟な対応ができるケースもある

家族信託・民事信託を行うことにより、成年後見制度に変わる財産管理と遺産承継への新たな選択肢の一つとしてのメリットがあります。その一方で、2007年に信託法が改正され実務が徐々に普及はしていますが、まだ歴史がないため遺言や生命保険の分野のような法務・税務について判例などの積重ねがないことから法解釈が確定していなく、予期していたものと異なる解釈に覆る可能性もあるのです。

そのため、導入にあたっては、信託法や相続税法などにしたがってそのメリットとデメリットを考慮して、家族全員で合意形成をしたうえで、家族信託・民事信託の設計をしていく必要があります。

そのうえで、メリット・デメリットを考慮し、やるのか?やらないのか?を家族で話し合いをすることで、いままでにはなかった有益な家族会議をすることができるかもしれません。選択肢は多いに越したことはありません。導入せずとも検討することは可能です。是非一度検討してみてはいかがでしょうか?

当事務所では家族信託関連の相談から解決まで数多くの経験と実績を積んできました。200件を超える信託形成の実績と日々のアップデートにより、適切な家族信託締結をサポートします。また1年に1回定期的な連絡といったアフターフォローも忘れません。

家族信託について不安やお悩みがある方はぜひ気軽にご相談ください。

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