【2019年】成年後見|最高裁の親族後見人を認める方針変更の影響は!?|司法書士の立場から見る後見解決事例

この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)


司法書士法人勤務後、2013年独立開業。
司法書士としての法律知識だけではなく、「親子の腹を割った話し合い、家族会議」を通じて家族の未来をつくるお手伝いをすることをモットーに、これまでに100件以上の家族信託や生前対策を取り組んでいる。年間50件以上のセミナーを全国各地で行い、家族信託の普及にも努めている。

現在、司法書士や弁護士が多く、就任している実情の運用の見直しのため、2019年3月18日に最高裁判所は、後見人には「身近な親族を選任することが望ましい」との考え方を示したというニュースが報道されました。

認知症になってしまった成年後見制度を活用した場合、家庭裁判所に成年後見人選任の申し立てを行いますが、希望した候補者が成年後見人に選任されるとは限りません。
実際の運用として2018年は、約7割超が司法書士、弁護士などの専門職などが就任しています。
※参考 成年後見関係事件の概況(裁判所HPより)

みなさん、認知症の方ってどのくらいいるか、ご存知でしょうか?
2015年の厚生労働省の資料によると、2012年時点で、認知症患者は約462万人いるといわれており、今後、少子高齢化に伴ってこの数はますます増えてくるものと思われます。そして、2025年には、約700万人にのぼるとも予測されています。これは、65歳以上の高齢者の約5人に1人という割合です。

上記のように、認知症患者が増える傾向にあるにも関わらず、年間利用件数は36,549件(2018年)しかなく、制度利用が伸び悩んでいます

今回の記事は、親族後見人への見直し発表後に当事務所で実際に取り扱った事例を元に、実際の運用についてご紹介していきます。

相談内容:施設に入所するため、空家となる実家を売却したい

状況

空家となる実家を売却した事例

高齢の父と母がいる長男からの相談です(個人情報保護のため、実際の事案を一部変えて掲載しております)。
自宅(時価3000万円)が父と母の2分の1の割合で2名の共有名義となっています。母は既に認知症を患っており、施設で生活をしています。母は体は元気なのですが、コミュニケーションをとることができず、判断能力が無い状態です。

父は実家で一人暮らしをしていましたが、今度、母と同じ施設に入ることになり、今後の施設入所資金と生活費が必要なため、実家の売却をしたいということで当事務所に長男が相談にいらっしゃいました。

母には、共有名義の自宅の他、預金と有価証券が約2000万円あります。財産の管理は今まで、父が行ってきましたが、父自身も施設に入所するため、今後、長男に任せていきたいという希望です。

ご提案

現状、不動産が父と母の二人の名義となっているため、実家の売買取引を行うには母が売買契約の当事者となり売買契約など不動産取引を行うことが必要です。しかしながら、母には、不動産取引を理解できる判断能力がないため、その手続きを行うことができません。そのため、成年後見制度の活用を提案しました。

成年後見制度運用方針からみる専門家目線からのポイント

成年後見制度とは

成年後見制度は「本人の財産を本人のために維持管理すること」が目的となるため、原則相続対策に向けた借入や不動産の担保提供行為等はできません。積極的な資産運用はできないので、有価証券投資や不動産投資などは当然できません。

成年後見制度を活用した場合、家庭裁判所に成年後見人選任の申し立てを行いますが、希望した候補者が成年後見人に選任されるとは限りません。実際の運用として2018年は、約7割超が司法書士、弁護士などの専門職などが就任しています。

中立的な専門家が後見人につくことで本人のための財産管理という面では適切にされますが、身近な親族のための行為は原則できず、また、本人が亡くなるなど、後見手続きが終了するまでその専門家の報酬(毎月約2万円~がかかります、横浜家庭裁判所の報酬の目安)がかかります。
本人が長生きすればするほど、専門家が業務として行うので継続的に費用がかかり、その負担が親族にかかることになるため、報酬が成年後見制度利用をためらわせる一因ともなっています。

親族が後見人なるためのポイントとは!?

親族後見人

これまでの経験や今回の事案を通じた家庭裁判所とのやりとりから、下記がポイントと考えられます。実際の判断は、裁判官が行うため、そのときの本人、家族構成、資産状況によって異なる点は了承ください。

  • 本人が有する財産が多くなく、管理が難しくない
  • 管理する金融資産がある程度ある場合(目安:1000万円~)には、親族が後見人となるほか、第三者専門職が成年後見監督人となりその監督を受ける、又は、成年後見制度支援信託又は成年後見制度支援預金を受けること
  • 他の親族から、申立書に記載した後見人候補者が後見人となることについて同意を得ている
  • 親族後見人候補者の年齢、居住環境、資産状況、経歴などに問題がない

以下、各ポイントについて解説していきます。

本人が有する財産の管理が難しくない

本人が有している財産が、アパート、駐車場、借地など、複数の借主との賃貸借契約や管理など行う必要がある場合には、専門家を選ぶ傾向が高いです。また、多額の預金、有価証券など金融資産を有している場合もその傾向が強いです。

もともと、本人がもっている資産が、300万円程度のみなど、少なく、財産管理が複雑でない状況であれば、専門家を付けることによる負担を負うことができないので、後述する「成年後見制度支援信託・支援預金」を活用することなく、親族のみの後見人が認められやすい傾向があります。

管理する金融資産がある程度ある場合(目安:1000万円~)には、親族が後見人となるほか、第三者専門職が成年後見監督人となりその監督を受ける、又は、成年後見制度支援信託又は成年後見制度支援預金を受けること

多額の財産管理による、横領などの不祥事案件が発生を防止するため、成年後見監督人による監督(監督報酬の負担があります)を受けるか、又は後見監督人をつけないのであれば、日常生活に必要がない金融資産については、家庭裁判所の「報告書・指図書」がないと引き出し等ができないという「後見制度支援信託」か「後見制度支援預金」の利用を求められます監督人をつける、又は、必要がない金融資産については引き出しができないようにし、横領を防ぐ趣旨です。後見制度支援信託・後見制度支援預金について、下記参考となるHPを紹介します。

後見制度支援預金について(東京東信用金庫HPより)
※後見制度支援信託(三井住友信託銀行)

他の親族から、申立書に記載した後見人候補者が後見人となることについて同意を得ている

後見人候補者となる方について、他の親族から反対意見がある場合などには、家族関係に対立がある可能性があり、適切な財産管理ができない可能性があるため、中立的な第三者専門職を選任します。

後見人候補者の年齢、居住環境、資産状況、経歴などに問題がない

成年後見の申し立ての際に、成年後見候補者の状況、本人の状況の報告の他、本人の財産目録、その根拠資料として1年分の預金通帳の写し、金融資産の資料、収入、支出の明細書、領収書などの提出が求められます。上記資料を通じて、候補者となる方が適切に財産管理をできるのか、また、一般的に、候補者となる方が今まで本人の財産管理を行っていることがおおいため、今までの管理が適切か、通帳の動きと経費の支払が適切かなど見られます。

上記を事情を総合勘案して、候補者が後見人となっても問題ないか判断しています。

また、申し立ての際に家庭裁判所に提出する医師の診断書も、家庭裁判所が判断する際の重要な要素です。
診断書については、下記の記事で詳しく解説していますので、確認してみてください。

>>成年後見制度の申立で知っておきたい「診断書」のもらい方|診断書の書き方で判断能力判定に差が出ます

運用方針見直し後に実際に親族を後見人候補者として申立てをした実際の事例

親族を後見人候補者として申立てをした実際の事例

今回の相談者には、実家の他、金融資産があることから、必ずしも長男が後見人と必ず後見人と選任されるとは限らないこと、そして、場合によっては、成年後見監督人又は成年後見制度支援信託・成年後見制度支援預金の利用を条件とされる可能性があることを伝えたうえで、成年後見申し立てを行うことになりました。

そして、上記運用を踏まえ、長男のみが成年後見人として選任されるよう、内容を精査の上、上申書、照会書など書類を用意して成年後見後見申し立てを行いました。

家庭裁判所からの要望

自宅の他、金融資産が2000万円ほどあるため、長男が後見人となるためは、下記選択肢の中から、いずれかの方法を選択することを求められました。

①成年後見監督人を選任

成年後見人である長男の他に、第三者専門職である成年後見監督人を別途選任し、成年見監督人の元、長男が後見人として財産管理を行う。

➡今回の事案では、長男のみで財産管理を行うことが希望のため、選択できません。

②成年後見制度支援信託を活用する

成年後見制度支援信託を活用した場合、長男の他、専門職(弁護士)選任し、当初2名体制で後見人として就任することになります。そして、弁護士主導のもと、有価証券を全て現金化し、自宅の売却も弁護士が行い、全て現金化した上で、信託銀行に日常生活に必要がない金銭を全て信託し(金銭を全て預け)、すべての手続きが完了次第、弁護士が後見人を辞任し、その後は長男が単独で財産管理を行うことになります。

➡最終的に財産管理を長男が行うことができるものの、有価証券の現金化、自宅の売却、信託銀行への成年後見制度支援信託の手続きなど、手続きに関するそれぞれの手続きにかかる報酬(例.居住用不動産の任意売却 被後見人の療養看護費用を捻出する目的で,その居住用不動産を,家庭裁判所の許可を得て3000万円で任意売却した場合:約40万円~約70万円、横浜家庭裁判所報酬の目安により)がかかるため、その後の母の生活費のための財産負担の懸念から選択できません。

③成年後見制度支援預金を活用する

専門職は入らず、後見人である長男本人が金融機関や不動産取引(別途、裁判所の自宅売却の許可は必要)を行います。成年後見制度支援信託と異なり、成年後見制度支援預金では、専門職は選任されないため、その報酬を払う等、余計なお金はかかりません。
有価証券、自宅を現金化して日常必要な生活費相当額以外は全て成年後見制度支援預金に全て金銭を入れます。

➡長男のみで金融機関及び不動産取引など全て財産管理ができることから、今回は成年後見制度支援預金を活用することにしました。上記手続きにおいては当事務所でサポートすることになりました。

まとめ

  • 専門職後見人が約7割という現状から、最高裁判所が親族後見人が望ましいとの考え方を示した
  • 最高裁判所の運用見直しにより、従来では親族のみで完結することができなかった家族でも、親族のみが後見人となれる可能性が増えた
  • 親族が後見人選任されるポイントとして、①管理が難しくない、②監督人又は成年後見制度支援預金・支援信託を活用すること、③親族の反対がない、④候補者に問題がない、がある

上記の通り、最高裁判所による運用方針が変わり、以前であれば金融資産が2000万円ある場合など、「全て親族のみが後見人となる」ことを認めることは難しかったのですが、運用見直しにより、条件付きではありますが、運用は見直されつつあります。

ただし、成年後見制度の原則である“本人のための財産管理”という部分については厳格な運用は変わらないため、家族のために両親の財産を活用したい、今まで通り柔軟な財産管理をしたい、積極的な相続対策をしたいというニーズを満たすことはできません。やはり、できることであれば、両親が元気なうちに将来の財産管理、資産承継の道筋を作ることができる、家族信託・民事信託での財産管理の方法も含めて、対策を検討すべきです。

是非、上記も踏まえて、家族で一度将来のことについて話してみてくださいね。

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